屋上
皆で母屋の屋上に戻るともう夕闇が迫ってきた。雨は相変わらずポチポチである。親父さんとの話である。
今年はモンスーンに入っても雨が少なく、暑い日が多い。
今年はモンスーンが空梅雨になる可能性を館長は心配しているのだが、ここも空梅雨の可能性が高い地域に入るのだろう。
新しい政府になって、道も良くなりそうで、電信柱も立て始まり、そのうち電気もくるであろうと期待している。
新政府は、貧乏州のビハール州を豊かな農業州に転換する政策を掲げ、村に電気と道をとのスローガンで戦い、それで勝利したので、村の人たちは期待しているのである。すでに村まで、電信柱が立ち始めている。村までの途中まで道路の改良工事も行われていた部分も確かにあった。
長男が家を継ぎ、次男のマノージとビノードが働きに出ているので助かっている。
ビノードの家がレンガの壁で、コンクリの屋根になったのは、兄のマノージとビノードの送金によるもので、家の周りにも増築用のレンガを積み上げてあるのを見ると、館長のルピー役に立っているのであるなぁと感無量である。フィリッピンの出稼ぎの送金で、まず家を改造する話を思い出し、同じ考え方であるなと納得である。
この村は、爺さんの四人の息子達により始まった村で、村中が一人のヤダブから始まりだから全てが親戚である。モスリムもいるが平和な村である。
屋上のほうが涼しいから、今夜は屋上に寝ると良いと言うと、男衆が下から木製の組み立て式ベッドを持って来て、組み立て始めた。
ベッドが組み上がり、蒲団が敷かれ、その上で足を伸ばして座るころ夕日は落ち夕闇になった。夕日を確認できたのであるから、明日は晴れであろう。ポチポチ雨も晴れの方へ向かうのであろうと何となく安心しようとしているのが館長である。時計を見ると6時を回っていた。
四男のプロモドが石油ランプと、手提げ袋を持って屋上に上がってきた。妹たち二人もバッグを持って一緒である。母親もスドゥミヤがランプの芯を調節して、炎が安定すると、プロモドはバッグの中からおもむろに教科書を取り出した。女の子たちは木枠つきのスレート(石版)と取り出して、勉強を始めた。
プロモドは指で教科書の単語を追いながら声を出しての朗読である。女の子は石板に何か書いている。
プロモドが一課2ページを読み終えると、プロモドが女の子の石板を見て、添削を始めた。間違いを見つけると丁寧に指摘して、書きなおしている。二人分のそれが終わると、次の課の朗読である。そこへ親父さんのバンドゥが来て、プロモドの読みを聞く。おかしな所や、読みそこないを指摘して直す。
何とも四人での勉強のシーンは微笑ましいものである。因みにプロモドはビノードより読み書きが数段上手である。ビノードは殆ど読み書きが出来ない。読み書きに関しては、賢兄愚弟ではなく愚兄賢弟である。
雨は相変わらずポツポツである。
勉強が一段落したところで、プロモドに家族の名前を書いてもらった。
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父親 |
Bandhu Prasad Yadav |
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母親 |
Sudmiya Devi |
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長男既婚 |
Santosh Prasad Yadav |
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次男既婚 |
Manoji Prasad Yadav |
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三男 |
Vinod Prasad Yadav |
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四男 |
Promod Kumar Yadav |
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長女既婚 |
Meena Devi |
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次女既婚 |
Shobh Kumari |
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三女既婚 |
Gori Kumari |
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四女 |
Kiran devi |
見事な書きなれたデヴァナガリである。
そうこうしていると、ビノードが「夕飯の用意ができたが、米とローティとどっちがいいか。」と聞いてきた。館長はローティを選んだ。ステンレスの食器にチキンカレーとローティとマンゴーアチャール(若いマンゴーの漬物)と水がが運ばれてきた。ベッドの蒲団を半分挙げて、ベッドに横座りでの食事である。石油ランプは少し離れた台の上に置かれ、屋上の皆に光を与えていた。かなり暗い食卓であったが、美味かった。
チキンカレーは鶏を一匹丸ごと潰して作ったようで、マメ(腎臓)も入っていたし、皮も入っていた。
都会の鳥屋では鶏は皮を剥いで供されるが、田舎では勿体無いのですべての部分を食べるのが当たり前の様である。これが美味さを引き出している。
ビノードがつくるチキンカレーはインド人にも評判であるが、その原点はここであったかと言う味であった。あっさりしていて、しかも鶏の美味さに深みがあり、辛さも適度で文句のつけようがない。手間暇を惜しまずに作り上げた見事なカレーであった。館長はお代わりをしてしまった。マンゴーのアチャールはべたべたしたものではなく、乾いたタイプで、塩加減非常によかった。もちろん全て手で食べたわけである。水は家の前の手押し井戸の水であるが、少し甘味のある水であるが問題ない。
運転手を含めた男衆皆が食事を終え、女衆が下で食事をして皆が屋上に上がってたところを見計らってかねて用意の日本の菓子を皆にあげた。甘納豆、チョコボール、チョコレート、飴などなどである。皆喜んでいた様子である。
雨はポツポツであるが、涼風の吹く、平和な夜である。
前立腺に問題を抱えている館長は、小便が近い。ビノードに小便のジェスチャーをすると、外でと言う合図である。因みに、北インドでは、掌を上に向け小指を立ててるのが小便の合図である。車の運転手が小指を立てたら、良い女がいるよと言う意味ではなく、小便タイムの意味である。都から錦を飾ったシティーボーイのビノードは、今夜の主役の一人であるので偉いのである。弟のプロモドに早速指示してご主人様は小便であると。プロモドは懐中電灯(この家には2個あったようだ)を持って足元を照らして外に案内してくれる。戸口を出ると、待ったましたとばかり、犬が2匹吠えかかって二人の足もとに纏わりついてくる。遊んでくれると期待しているのであろう。プロモドが叱りつけるとしっぽを巻いて離れていった。
家を出て、4〜5メートルの椰子の下を見当に小便をすると、プロモドも1〜2メートル離れて連れションを付き合ってくれた。館長はスニーカーを履いていたが、プロモドは当然のことながら裸足である。
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