インド進出日本企業の実態とインドの将来性

2002/11/27

インド商工会議所連盟に3年間の駐在
1999年の10月からJICAの専門家として、対印投資促進を目的として3年間ニューデリーに駐在して、2002年10月に帰任した。
赴任の時期は、インドの核実験により日本政府がサンクションを宣言して、新規円借款が停止しているときであった。その中で、人道的援助と、人的な支援はサンクションの対象外とのことで、インド政府が専門家派遣の要請をしてきた。それに基づき、上記の通の対印投資促進に関わる専門家として派遣され、インド商工会議所連盟の日本室の一隅に席を置いた。当初は2年の予定であったがインド側の延長要請があり3年の駐在となった。

対印投資促進のための日常業務
インドに駐在して日本企業の対印投資促進をはかるというのは難しい仕事で、何から手をつけるか戸惑う点があったのが正直なところであった。
日本からインド進出を目指して乗り込んできた方々に対するオリエンテーション、コンサルティングは当たり前として、すでに進出している企業の成功談を積極的に日本にPRすることが結果的には進出の機運を盛り上げることであるとの認識から、成功談を拾い上げることを心がけた。その作業の中で、進出企業がいろいろな面で悩みや、問題を抱えているところが少なくないことに気付き、それらの問題や悩みに小職のインド経験が役に立つことが少なくなかった。既に進出している企業のトラブルシュウティングに係るコンサルティングが仕事の重要な部分にもなった。
そんな経験の中で感じたことをいくつか取上げて見る。

二種類の日本企業
日系進出企業のインドに対する評価は二分していて、インド人を積極的に評価する企業と、やや否定的に捉えている企業があった。またインド特有の社会環境を阻害要因として意識しすぎる企業とインドの現状を冷静に分析し対応しているところとがあった。当たり前の話であるが、積極的に評価している企業は巧くいっている企業であり、巧くいっていない企業はその巧くいかない原因の一つがインド人ワーカーの資質やインドのせいにしている場合が見られた。

インドのマイナス評価
インド人をマイナス評価している企業が指摘する点は、常識がない、基礎的な訓練が出来ていない、転職を平気でやる、技術が横に流れない、要求ばかりする、労働組合の要求が法外であるというようなところである。またインド特有の成功阻害要因として、不安定な政権、地域格差、日印間の心理的距離、外資歓迎はするが優遇はしない政策、高金利、高関税、複雑な税制、複雑煩瑣な法体系、汚職の温床、古い因習、インフラの未整備、外国人に対する生活インフラの未整備、インド特有の中華思想等々が挙げられる。これらの説明には相当の紙面が必要となるので具体的な例示説明はまたの機会に譲ることにするが、これらの困難を克服するためにはインドに対する理解を深めることが最低限必要である。外国に進出する際に共通的に起こる問題とインド特有な問題を整理できるとかなりの部分が解決できる。

評価できるインド
インドを評価している企業は、インド人ワーカーの手先の器用さ、視力のよさ、真面目さ、忍耐力、耳の良さなどを資質としてあげている。また、中間管理層、管理層の働きぶりに瞠目する日本人も出てきている。時間外労働をいとわず積極的に責任を持って働くインド人が生まれてきていると言う。会社に対する忠誠心や誇りすら見られると評価する会社もあった。
先に挙げた阻害要因については、それらが存在することを認めた上で、冷静に分析して対応策を講じて乗り切っている。これらの要因はインド企業、外資企業いずれにも平等に影響するわけであるから、日系企業にあるいは特定企業に選択的に適用されるわけでないと考えると冷静になれると指摘する企業もある。インドの会社が巧くやっている、なら国際的な感覚と日本的な感覚も持ち合わす日本企業が巧く対応できない筈がないとの考え方もあるようだ。
さらに、インド企業の生産技術について、潜在的にかなりの程度に到達していて、信頼も置けると判断している企業があり、実際の戦略に組み込んでいるところが成功している。自転車から原子力、宇宙開発まで自前で行っている国であるという認識もあった。

ホンダの例
ホンダは、既にインドが門戸開放を1991年に行う以前に、100ccの二輪車、ゼネレーターで進出をして、その後四輪に進出して成功をおさめている。そこへさらに100%ホンダの資本でスクーター生産会社を設立した。既に生産を開始して、中南米への輸出の分野でもホンダクオリティーのインド製とのことで好評をえていると言う。そのスクーター工場のベンダーは一社を除き残りは全てインドベンダーで、日系ベンダーは価格的に折合わないと排除された形となっている。インドベンダーを教育すればホンダの品質レベルの部品が入手可能であることを実証している。また、その工場にはインド製の機械が塗装ライン以外では7割以上を占めている。
ホンダはインドの技術水準がスクーター製造分野では十分であることを考慮に入れてFSを行ったようである。さらに、インドにおける二輪に関するR&Dはインドで行うとのことで、かなりの規模のR&D部門をインドで展開すると噂されている。

トヨタの例
トヨタは現在クオリスと言う車を生産し市場から好評を得ている。それと平行してバンガロールにアジアカーのトランスミッションの工場の新設を計画中である。アジアカーのトランスミッションの工場がタイでなく、インドネシアでなく、マレーシアでなくインドである点に注目したい。インド製の製品をアジアの車に載せるということは、コストもさることながらトヨタのインド製品に対する信頼に他ならない。トヨタもインドを積極的に評価している企業である。

インドのソフトウエアー開発
インドのソフトウエアー開発の水準は日本で考える以上に水準が高く、企業内コンピューターのメインテナンス及び開発研究をインドに移す日本企業が見られるようになって来ている。インドのソフト開発についてはまたの機会に譲るが、1点だけ指摘したいことがある。
インド人は個人的には優れていても組織の中でチームワークできないと評価が従来あったが、この点も見直す必要がある。アメリカのカーネギーメロン大学のSEIのソフトウエアー開発に関する企業ランクのレベル5に位置する69社の中にインドの会社が49社入っている。(2002年5月現在)アメリカ国防省が大学に依頼してのランク付けにインドのソフト開発会社が67%入っているという事実に注目したい。インド人の個人的な資質に加え、その優秀な人材を組織化してソフト開発を行うノウハウをインドの会社は持っているということである。
日本の進出企業の中で中間管理職や管理職を評価するところが出てきているのも不思議ではないようだ。

投資先としてのインド
 年々4〜6%の成長を続け、膨大な人口を有し、潜在的に近代工業の基礎があり、優秀な人材と資源を持つインドは、市場として、生産基地として、リスク分散先として、日本の友好国として、またアメリカの友好国として、投資先としては日本にとって決して損にならない、それどころか是が非でも投資を増やして行くべき先であることを指摘したい。  
数年前の年賀上に「21世紀は、唐・天竺・コンピューターの時代」であるとかいた記憶があるが、インド駐在19年を終えた今、その感を新たにしている。

 

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