米国IT産業のかげりの影響

2001/5/15

昨年末からインドの労働市場に変化が見られる。昨年の10月デリーにある日本企業から「エンジニア−が会社を辞めたいと言い出して困っているがどうしたらよいだろうか」と相談を受けた。操業間もない企業にとって、せっかくなれた技術者が転職を申し出てくるとその周囲に対する影響もあり、不安にならざるを得ない。相談を受けたが、転職を考えるインド人を引き止めることは出来ないので、気持ちよく送り出してはどうか。くよくよせずに、あとは新規採用することを考えるほうが実際的ですよと、アドバイスを行った。今年になってどうなったかを確かめたところ、アメリカ行きを考えていた彼のプロジェクトは立消えとなり今まで通り働いているとのことである。

日系のソフト会社の若き経営者の経験談として、彼が信頼していた技術者から飛行場より電話が入り「これからアメリカに行きます、給与の残りは口座の方へ振り込んでください。」との捨て台詞で会社を辞めた例を聞いたことがある。しかし、今、当地の雑誌に紹介されているのは、ある晴れた日の朝、希望に燃えたバンガロールのソフト開発会社に勤める若いカップルがアメリカ行きの切符をもらいに担当重役室に行くと、「残念ながら君たちにやってもらうアメリカのプロジェクトはキャンセルされた故会社を辞めてもらう。」と言われたというような類の話しである。

これらのケースは特殊の例ではなく、現在のインドのIT技術者たちは、アメリカIT産業のかげりの影響をもろに受け、その結果ジョブホッピングが極端に少なくなって来ている。この影響はコンピューター学校にもあらわれている。今まではアメリカの就職先が要求するであろうと思われるコンピュータートレーニングを自費で2万(5万円)〜10万ルピー(25万円)払い受講していたが、今は、中小のコンピューター学校が、学生に研修終了後の就職の保証をしなければ受講生が集まらない状況になって来ている。ある程度の技術水準があれば誰でもが渡米して自分のアメリカンドリームを実現できた昨年中頃までと大幅な変化である。

インドのソフトウエア−輸出の6割強がアメリカ向けであったが、ここに来てアメリカだけを市場と考えるのはリスクが大きいと判断する大手ソフト開発会社が増えている。

大手のソフト開発会社の経営陣はアメリカ一辺倒の方針に危惧を抱き始め、第二の市場である日本向けを重視し始め、30社以上が日本に事務所を開設したのはかなり前である。しかし、現場の技術者達は日本向けの仕事を嫌っていた。ある一定期間にあげられる結果はアメリカ向けと日本向けでは大差で、日本向けは言葉の問題を含め、アメリカ向けほどの数字を挙げることが出来ないとされ、結果会社の評価を受けられないと嫌われていた。従い日本向けの仕事を命じられた技術者たちの中から結果を評価してもらえるアメリカ向けの仕事を求めて転職者が頻発し、事実そのような仕事に高給で転職をするのが一つの風潮でもあった。現在は会社が命じる仕事をこなす姿勢に変化していると言う。

インド政府のIT諮問委員会は、今度のアメリカのIT不況を必ずしもインドにとって不利には働かないと分析している。アメリカがITのコストを下げようとすれば、オフショアーでコストの安いインドを使わなければならないと分析している訳である。しかし、今までのような疑問のない右肩上がりの成長が期待できないのは事実で、試練の時にインドIT産業は遭遇していると言える。

日本にとっては、今回のインドとアメリカとの間で起こったIT不況騒ぎはインドのIT技術者の目を日本に向ける絶好の機会と言える。ビジネスライクでないと悪評のある日本式のソフト開発の外注をインドはこなす必要に迫られており、技術者も会社の与える仕事を逃げる訳には行かぬ状況に置かれるわけである。

 

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